木型を削ることを、学びの初期から行う理由

木型を削ること木型は靴作りにおいてとても大切な工程です。
メーカーであれ、個人であれ、靴を作る人にとって、オリジナルの木型作りには心血を注いでいるものです。
そうした工程ですから、靴学校ではたいてい、靴への理解がある程度進んでから行われています。しかし、921では、学びの初期から積極的に、木型の加工に取り組みます。

木型は靴の出来上がりをほぼ決定するといえます。

決定する要素は、雰囲気(又は佇まいと言ってもいいでしょう)、機能、履き心地などです。
では、921で、靴についてほとんど知識も経験も無いうちから、木型の何に取り組むかというと、履き心地の部分です。
どの部分を削ると、履き心地がどうなり、どの部分を膨らますと履き心地がどう変わるのか、ということを、繰り返し体験することで経験を蓄積します。

なぜ履き心地についてなのかと言うと、雰囲気と機能は、作ろうとする靴の完成イメージを持っていなくては取り組むことが出来ないからです。そのため、靴の学びの初期では取り組むことが困難です。しかし、履き心地は、これまで靴を履いてきた経験がありますし、痛い、ゆるい、快適など、履けば感想がわかるものです。

本来は、雰囲気、機能、履き心地の全てを同時に作り上げることが木型作りなのですが、いきなり全てを同時に取り組むのは難易度が高すぎます。これは、ある程度靴について学んだ後であっても同じことです。たいていの場合、靴学校の授業で1年間に学生が作ることの出来る木型は、1型か2型です。そのため、どうしても、失敗しないように慎重になってしまいがちです。すると、終わった後に残っているのは、木型という作品です。
本来手に入れるべきことは、うまくいかない状況に面した際、何が問題なのか、どういう解決方法があるのか、考えるための下地であり、それは経験と、そのときに使った生きた知識です。

もちろん、履き心地のための「削り」や「足す」といった作業も、見た目に影響を与えます。といことは、先ずは履き心地のための寸法変更をいろいろと行いながら、その結果靴の見た目にどう影響を与えるかということも経験的に学ぶことが出来ます。

最終的には、雰囲気、機能、履き心地を同時に考えながら作業できるようにならなくてはいけません。足の寸法に対して木型の寸法はどうするべきか、靴を作るために守らなければならないことは何かなど、製作と失敗と検証を繰り返しながら、自分自身の視野を広げ、木型という小さな製作物の曲線のつながりの中に、様々な意味をこめることが出来るように、積極的に知識と経験を増やしていきます。

ビスポークシューズの製作は相手の好みを知ることから-921のカリキュラムで出来ること

寸法を測り、注文者の木型から作る靴のことをビスポークシューズと言います。
15年ほど前にあった手製靴ブームで随分知られるようになった言葉です。

オーダー靴と言うと、広い意味ではパターンオーダーや、その他受注後に生産する靴全てを含んでしまうため、ここでは他と区別するためにビスポークシューズと言うようにします。

手製靴をカリキュラムの主柱に置く靴学校では、このビスポークシューズを作れるようになることが目標です。

当校のカリキュラムでも、大切な要素の1つとして位置づけているので、どんな流れで製作が行われるのか紹介していきたいと思います。

作る前に知っておくべきこと

ビスポークシューズは、何よりも先ず、注文者の好みを把握するところから始まります。

履いてきた靴を見て、履き心地の好みを聞いて、デザインの希望を確認します。
ここで言うデザインには、つま先の形をどうするかなど、形状についても含みます。
この後の採寸の際に必要な情報を、予め知っておくことはとても大切です。

注文者の描いている靴のイメージを把握することができれば、そんなに時間を掛けなくても構いませんが、この時点でどういう靴を作るかの方向性はある程度決まっていなくてはいけません。
ある程度というのは、ここで決まっていなくて良いこともあるという意味です。
把握しておかなくてはいけない項目はきっちりと確認しておかなくてはいけません。

情報の使い方

必要な情報を把握した上で、採寸を行います。
作る形が分かっていれば、足に木型のイメージを重ねながら採寸することが出来ます。
希望の靴の形状を作りやすい足か、作りにくい足か、作りにくい足なのであれば、どこかに無理が生じるわけですから、その部分について、より詳しく足を観察しておく必要があります。
又は、足にストレスが掛かるのが嫌いな場合は、足に無理を掛けずにその形を作ることが出来るのかどうかを考えなくてはいけません。

採寸するポイントは人によって様々なので一概には言えませんが、多くの箇所を予め採寸するポイントとして決めている人も居れば、数箇所しか測らない人も居ます。
当校では比較的少ない箇所の採寸で木型を作成します。
やってみて、必要な箇所を実感したら、増やしていけば良いです。
把握した注文者の好みに合わせるためや、足の特徴から、必要な箇所があればその都度必要な箇所を測れば良いと考えています。
そのあたりは経験によって自分のスタイルを作るしかありません。
初めから沢山の箇所を測ることを決めつけて教えられてしまうと、「こういう足のときにはここの部分の状況を把握しておく必要がある」ということを、自分自身の経験で積み重ねることができません。

情報不足の影響

たまに以前教えていたときの生徒から、顧客の木型の相談を受けることがあります。
これより先の工程になりますが、採寸して、木型を作って仮合わせをした後、木型に修正を加えます。
このタイミングで、どう修正したらよいのか分からないという相談を受けたことがあります。
その時に私が、この方の好みは?とか、普段はどういう靴を主に履いて、ご注文いただいた靴はどんな靴なのかを聞いても、把握していませんでした。(その当時私が教えていたのは木型ではありません)
相手の好みや普段の靴についてが分かっていないと、仮合わせのときに、製作者からすると、「ぴったりだな」と思っても、注文者からすると「きつい」という風に、感覚にズレが生じてしまいます。
そもそも、注文者の意向が採寸に反映されていないということですから、デザインはともかく、足入れ感について、うまくいかなくても仕方がありません。

まとめ

つまり、
「作るものは靴だけれど、足の寸法情報だけではうまくいかない」
「寸法情報を活かすには、事前に必要な情報を把握しておくことが必要」
「きちんと整理されたカリキュラムで、順序良く経験を重ねることが大切」
ということです。

ヤハズ鏝(ゴテ)-希少な存在になりつつある道具たち

日本で靴作りの道具を作っている人がどんどん減っている。
いや、それは数年前の話か。いまやどんどん減るほどいない。それどころか、ほとんどいない。
海外でも減ってはいるが、まだ作っていて、日本でも輸入している人はよくいる。

先日、日本製の新品だが昔作られた靴作りの道具を沢山見た。珍しい道具の、始めて見るサイズの物等あって、それはまだ新品だったが、製造は昭和40年代だった。

つまり、新品の道具はどんどん減り、作り手は既に居ないと考えるほうが正しいのかもしれない。

そんな道具の中に、コバ鏝(ゴテ)というものがある。靴底の側面をカチッと極めるための道具だ。

こういうコバ鏝が、幅や形でいろいろと必要な人というのは、たいてい手製靴の職人なのだが、中でも手縫いの靴を作る人には必需品である。

昔の職人は、こうした鏝(コテ)類を、正月に作ったものだと、私が初めて靴作りを教わった方は言っていた。数年前に亡くなられたが、ご存命なら90歳を越えていらっしゃる。だから戦後すぐ位の話だ。

今の靴作りをする人たちも当然、熱心にこうした鏝を作っている。作っているというのは言いすぎか、仕上げているといったほうが言いかもしれない。

普通、鏝(コテ)類に限らず靴の道具は、そのままでは使えない。

きれいに形を整え、磨いてつるつるにしてから使う。
この作業は行うが、自分の好みに合わせてゼロから作るという人はあまり聞かない。

私は必要な場合は自分で自分の好みの幅のコバ鏝(ゴテ)を作る。

最もポピュラーなコバの形は角型だが、上下の角を大きく落として、側面を2つの斜面で構成するコバの形で、「矢筈(やはず)」というものがある。

このヤハズのコバ鏝(ゴテ)も見かけることが少なくなったため、自分の仕上げたいと思う形にするには、そのサイズの鏝(コテ)を自分で作る必要がある。

自分の思い描くコバに仕上げるのに必要なコバ鏝(ゴテ)の幅は、数を作るとわかってくる。
そのコバの幅に仕上げるためのコバ鏝(ゴテ)は、どうしても自分で作るより仕方が無い。

今後コバ鏝(コテ)が全く手に入らなくなるとは考えにくいが、思い描く靴を思い通りに作るための道具が世の中に無い場合、自分で作る必要が出てくるかもしれない。
今後の靴作りには道具作りも必要な能力の一つになるだろう。

921において、通常カリキュラムでコバ鏝を作ることは無いが、特別授業や、個人での取り組みはサポートする。

やり始めると没頭してしまい、時間も忘れ、食事も後回しになってしまう、ある意味で危険な作業だ。

靴作りをやるなら、この面白さもぜひ味わってみて欲しい。